シンコー・ストゥーディオの宝飾を手掛ける職人たち~ クリエイター

坂元亜郎(さかもとつぎお)
メンズファッション界のライター岡崎英樹さんの取材記事です。

楽しみながら作っていますよ。
仕事が終わってから、飲むお酒もおいしいですからね。

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『江戸職人』、『現代の名工』と聞いてどんなイメージをいだくだろうか?

東京、山の手の静かな住宅街。そこにひっそりとその人の工房は位置する。オシャレなショールームのようなガラス張り。自然光がめいっぱい差し込んでいる。その一番奥に座って作業をしているのが、代表をつとめる坂元亜郎(つぎお)さんだ。さわやかなチェックのシャツに首元にはカラフルなスカーフを合わせ、そして満面な笑顔。『江戸の職人』というよりは山の手の住人の雰囲気。 オシャレでダンディなイメージが漂う。

しかし、「造り」の基本ともいえる「打ち出し」(※1)の話を聞き始めると、彼の表情は優しい笑顔から一変する。「造り」の歴史はツタンカーメンの頃から伝わることや、日本で彫金の起源が古墳時代であること、その究極が神宮式年遷宮で調製される伊勢神宮内宮の神宝の1つ、須賀利御太刀(すがりのおんたち)(※2)であることなどを丁寧に語ってくれる彼の姿勢は、工房の机を囲む弟子たちや、他の工房からも修行に来る人々を拒まず受け入れるその広い器とあたたかさ、それに深い知識と技術を充分に感じることができる。

そして彼は、約140年前に誕生したものの、明治のはじめには惜しくも途絶えてしまい、幻の技法だといわれてきた『栗穂の技法』(※3)を再興させた人でもある。
「かの島崎藤村は『フランス留学記』の中で、『当時の日本文化は世界で類をみない』と書いているが、文化と共にある日本の伝統工芸も、個性的ですばらしい技術が残っていますよ。」
と、坂元氏は続ける。

さて、初めてシンコーストゥディオのデザインと出会った時の印象は……。
「ユニークだなというイメージ。でもこのデザイン図から実際に形にしていくのが難しいんだよ。」例えば、金とプラチナという2つの金属。これらはそれぞれの膨張率が違う。そのため金属の特性を熟知していなければ、うまく溶接することはできない。そういった、ひとつひとつの難問を解決しながら仕上げていく。
「作品作りは段取りが八分。」という坂元氏。道具のひとつ、鏨(タガネ)(※4)も彫りにあわせて作りながら彫っていく。頭で段取りをイメージしながら、手は無意識で動いていくようになったら、一人前という事らしい。
「この仕事は好きじゃないとやっていけない。楽しみながら作っていますよ。仕事が終わってから、飲むお酒もおいしいですからね。」
と、タイミングよく今晩のお誘いの電話がかかって来た。

『現代の名工』が最後に語った一言。そこには昔の江戸職人と変わらぬ、粋で、ちょっとやんちゃな顔がのぞいた。

 
  • ※1 「打ち出し」
    金属の一枚板を叩き、立体的な形に打ち出す技法。現在は打ち出しをできる職人は、数少なくなっている。
  • ※2 須賀利御太刀(すがりのおんたち)
    伊勢皇大神宮の御神宝。数ある御神宝の中でもひときわ豪華で華麗、気品に満ちている太刀。太刀身(長さ)は、約90cm。錺金具が美しく、鞘に施される漆塗の工程の中で、中塗りを施し終わった上に、糊漆で金板、銀板を瑞雲麒麟の文様を切り抜いて付着させる「平文」という技法がもちいられている(特に有名なのは柄の部分に鴇(トキ)の羽が使われている)。須賀利御太刀のルーツは、天平時代。1000年以上前に作られ、現在に伝えられている。
  • ※3 粟穂の彫刻
    作者は荒木東明(文化14年1817年~明治3年1870年)。幕末金工界に誕生した一人の天才は、たわわに実った粟穂を写実性豊かに表した。鉄地、赤銅地の上に、金色に映えた粟穂を見事に表現した彫刻で再興不可能と云われた。
  • ※4 鏨(タガネ)
    鋼でできている棒状の工具。叩き、切削、彫刻、打ち出し、紋様打ち、切断など、さまざまな用途で使われる。
 
  • Producer/米井亜紀子(よねいあきこ)
  • Designer/小原沙優(こはらさや)
  • Craftsman/坂元亜郎(さかもとつぎお)
  • Engraving/菊池隆志(きくちたかし)
 

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