シンコー・ストゥーディオの宝飾を手掛ける職人たち? クリエイター

菊池隆志(きくちたかし)
メンズファッション界のライター岡崎英樹さんの取材記事です。

和に遊び心もいっぱい取り入れている、今までになかった切り口。
「彫り手」としても楽しい仕事です。

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満面の笑みを浮かべた顔にすこしおどけた風貌、腰には大好きな酒造メーカーの帆前掛けをつけ、足元を見ると最新のアディダスのスニーカー。「江戸職人」というイメージにはほど遠いものの、そのミスマッチ加減のセンスがおもしろい。これが菊池さんの第一印象だ。江戸文化をコンセプトとする『シンコーストゥディオ』のジュエリー制作の中で、最後のフィニッシュ役、「彫り」(※1)を担当しているのが菊池隆志である。

“優れた野球のピッチャーが何種類もの球種を使い分ける”というけれど、菊池さんは鏨(タガネ)1本だけで何種類もの彫りを使い分けることができる。
しかも彼のデスク周りにある鏨の数は何百本にものぼる。そう考えると菊池さんの彫りは無限である。一方で、彼の「彫り」一つでジュエリーを生かすも殺すもできるということらしい。

「『彫り』の失敗は作品全体をダメにしてしまう」と、菊池さん。例えほんの0.1ミリの作業さえも一瞬でも気が抜けない。それまでいい素材を使い、どんなに完璧に作り上げてきても「彫り」が悪ければ、その行程すべてをダメにしてしまうということである。

そこで重要になってくるのがきちんとした道具、経験、それに職人のやる気だ。
「最近の鏨はいい鋼材でできているので、砥がなくても大丈夫なモノが多くなっていますが、昔から使っている愛着のあるものは、基本は毎日砥ぎます。この砥ぐ作業から彫りの作業が始まっているといってもいい。一本で何種類の彫りを使い分けるほか、地金(※2)の種類やサイズによって使い分けて作業を行ないます」

そして、経験は長くやるほどに増していくけど、最も大事なのが職人のやる気。職人のやる気をうまくコントロールするのは意外と難しいもの。

「その点、シンコーストゥディオさんは職人のやる気を引きだすのがうまいですね。打ち合わせではデザイナーのイメージしたデザイン図を説明しながら、こちらからの新しいアイデアをうまく引き出してくれる。そして、シンコーストゥディオといえば、「和」のデザイン。もちろん従来からも和のデザインはありましたが、シンコーストゥディオは和のモチーフだけじゃない。ひとつ、ふたつくらい捻った感じですね。和に遊び心もいっぱい取り入れている、今までになかった切り口です。彫り手としても楽しい仕事。辻が花、結城ではシンプルだから余計たいへんでした。ああいった、題材にあるような、植物のモチーフを彫る際には『息吹』を与えるような気持ちで彫っています」。

取材がちょうど終える頃、工房のドアを開ける来客が訪れた。
「あ、い、いいですか?」
その十代の男性の来客は、彼が講師を務める学校の生徒。菊池さんは、工房の一部を『未来の彫り職人』のために開放している。

「僕らが始めたときから職人は減っていたけど、今はもっともっとなり手が減っている。それでもやる気がある若い人たちにちょっとでも力になれればと思いまして……」。
とはにかみながら、終始大きな笑顔を絶やさずそう話す菊池さんは、第一印象からまったく変わらない。いわゆる昔の頑固な「職人」とはちょっとイメージは違う。彼は、「伝統」と「現代」を素直に受け入れ、吸収し、そのミスマッチを楽しんでいるかのように見えた。

 
  • ※1 「彫り」
    和彫りの場合、鏨(たがね)と槌(つち)を使い、金属に凹凸を彫り込んで文字や模様を描く技法。地金を彫って石を留めるダイヤの「彫り留め」も彫り職人の仕事。
  • ※2 地金
    金・プラチナ・銀など、ジュエリーに使用する金属のこと。
 
  • Producer/米井亜紀子(よねいあきこ)
  • Designer/小原沙優(こはらさや)
  • Craftsman/坂元亜郎(さかもとつぎお)
  • Engraving/菊池隆志(きくちたかし)
 

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